知ってそうで知らなかった、スーツ生地の耳の話

投稿日:インフォメーション

オーダースーツ店に行くと、たくさんの生地が垂れ下がっています。

よく見ると、それぞれの生地の端に巾1センチほどの帯のようなものが付いていて、”Made in Japan”や”Italy”とか”England”など様々な文字が刺繍されています。

ものによっては色鮮やかなリボンのような見た目で目を引きます。

これを服地業界では『耳』と呼びます。ちなみに英語ではWovenselvedge(ウーベンセルベッチ)といいます。

 

 

何のためにあるの?

より丈夫に

一般的にスーツの生地は150cm巾で織り上げられていくわけですが、よく見ると端の部分だけ織り方の構造を変えて頑丈に織っています。

もともとの由来は出来上がった生地が端からがほどけてしまうのを防ぐために発案されたものだそうです。

この”耳”の部分だけは”ジャカード織り”なので非常に強く光沢があって服地に高級感を与えます。

同等の太さの縦糸と横糸を不規則に織っていくため、複雑な柄も再現できるので、ブランドによっては凝ったデザインも多くあります。

音符のマークはかわいいですね。

現代では生地を”バンチ”と呼ばれる小さな本のような見本から選んだり、見開きで画用紙ほどの厚みの紙にたくさんの生地を小さく切って張られた見本があるのが当たり前ですが、

そういったもののない時代は現物の生地そのものを見る以外なかったので、それぞれのブランドが自社の生地をアピールする方法としてこの”耳”に派手なカラーの刺繍や文字を加えるようになったそうです。

もともとはブランドの名前や生地そのものを売り込むための生地屋さんのアイデアでもあったんですね。

 

品質表示

また、『耳』にはいろいろな情報が織り込まれています。

主にブランド名、シリーズ名、原産国、素材、番手などが表記されることが多いです。

現代でこそ、品質表示タグが隠れたところにつけてありますが、当時は耳を見れば一目でわかるようになっていたんですね。

また、生地の裏表を確かめるのにこの耳を見ればわかります。色褪せを防いだり、運搬の際傷つかないようにするために裏側にして保管されます。

 

裁断後はどうなるの?

この『耳』はスーツを仕立てる際ほとんど使用しません。

使い道としては、主にパンツの裾の折り返しの内側にそのまま縫いつけます。

これは”靴擦れ布”とも呼ばれおり、パンツの裾の後ろ側が靴のかかとで擦れて傷付かないように付けられるものです。

時々、「はみ出ていますけど大丈夫ですか?」とご指摘をいただいたことがありますが、これは擦れて傷付かないように、あえて靴擦れ布をずらして付けているのです。

傷んでしまった時は靴擦れ布だけを交換すれば良いので助かりますね。

また、パンツの脇ポケットの裏にも同じようにこの生地の耳部分を使うこともあります。

 

今ではステータスに

この『耳』自体にステータスをお持ちの方も多いようです。

こういったことから『耳』がないものよりも、『耳』に原産国、メーカー、原材料が記載されている紳士服地はやはり優秀だと言えるようですね。

 

まとめ

仕立てや生地そのものを補強するほか、後からお直しなどをする際に、どこの生地で仕立てたのか、どういった生地なのかが一目でわかるように、品質表示のためのものでもあったようです。

また現在では、ブランドや生地自体のクオリティのみならず、色合いの良さやデザイン性が高い耳そのものに価値を感じる方も多くおられるようです。

耳のデザインに目を向けてみるのも、オーダースーツの楽しみ方の一つかもしれませんね。

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